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決算書をAIに読ませて大丈夫?士業の守秘義務とクラウドAIの安全性を整理する

2026-07-31 公開 | 執筆:高林栄二(行政書士・高林栄二行政書士事務所)

建設業許可の財務諸表づくりをAIで効率化したい。けれど、顧問先の決算書を外部のAIサービスに送ってしまって本当に大丈夫なのか——この不安から一歩を踏み出せない先生は多いのではないでしょうか。

筆者自身も税理士・行政書士として同じ懸念を持ち、自分が使うツールについて、AI事業者の規約を読み込み、事業者に直接問い合わせ、最終的に不正利用の監視を目的としたプロンプト保存について、Googleから例外承認を取得するところまで実際に手続きを行いました。この記事では、その過程で整理した「確認すべきポイント」を共有します。

※ 本記事は一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。守秘義務に関する具体的な判断は、所属会や弁護士にご確認ください。

そもそも、AIに読ませることは守秘義務違反なのか

結論から言えば、外部サービスの利用が直ちに守秘義務違反になるわけではありません。士業は日常的に、会計ソフトのクラウド保存、電子申告、外部サーバーでのバックアップなど、外部事業者にデータを預けながら業務を行っています。AIサービスもその延長線上にあります。

問題になるのは「外部に出すこと」そのものではなく、出した先でどう扱われるかです。整理すると、懸念は次の2つに分かれます。

  1. 学習に使われる懸念 — 入力した決算書の内容がAIの学習データになり、他人への回答に影響する可能性
  2. 保存される懸念 — 送信内容が事業者側のサーバーに残り続ける可能性

この2つが解消できるかどうかが、実務上の判断の分かれ目になります。

ただし、学習と保存さえ解消すれば無条件に使ってよい、という意味ではありません。依頼者との契約内容、送信する情報の範囲、利用目的、アクセス権限の管理、委託先(その先の再委託先を含む)の管理体制も、あわせて確認する必要があります。

また、個人情報保護法上の取扱いと、士業の守秘義務は別の枠組みです。個人情報保護委員会は、生成AIサービスに個人情報をプロンプトとして入力する場合について、特定した利用目的の範囲内かどうかを確認するよう注意喚起しています。「守秘義務の観点で問題ないか」と「個人情報保護法の観点で問題ないか」は、分けて検討してください。

無料AIと法人向けAIでは、データの扱いが違う

ここが最も重要な点です。同じ会社の同じAIモデルであっても、無料プランと法人向け有料プランではデータの取り扱いが根本的に違います。

個人向け・無料プラン法人向け・有料プラン
入力データの学習利用規約上、利用される場合がある利用されないと規約で明記
データ処理契約(DPA)一般に対象外締結・準拠が可能
保存期間の扱い明確でないことがある規約・ドキュメントで公開

つまり、「AIだから危ない」のではなく「どのプランのAIを使うかで結論が変わる」ということです。士業が業務で使うのであれば、無料の個人向けサービスに顧問先データを入力するのは避け、規約で学習不使用が明記された法人向けサービスを選ぶ、というのが出発点になります。

ただし、上の表はあくまで大まかな傾向です。料金を払っているかどうかだけで安全性が決まるわけではありません。同じ事業者でも、個人向けアプリ・開発者向けAPI・クラウドの法人向け基盤のどれを使うかで適用される規約が変わり、管理画面の設定や、検索連携などの付加機能を使うかどうかでもデータの扱いは変わります。判断は「有料かどうか」ではなく、実際に利用するサービスの契約・規約と設定で確認してください。

契約前に確認すべき3つのポイント

1. 送信データが学習に使われないか

利用規約またはデータ保護に関するドキュメントに、送信データをモデルの学習・改善に利用しない旨が明記されているかを確認します。「原則として使わない」といった曖昧な表現ではなく、条項として書かれているかが重要です。

2. データがどこに、どれだけ保存されるか

見落としやすいのがここです。学習に使われないサービスでも、不正利用の監視を目的として送信内容が一定期間保存される設計になっていることがあります。保存の有無・期間・保存される地域(リージョン)を確認しましょう。事業者によっては、この保存についても例外扱いを申請できる制度を設けています。

ここで大事なのは、ひとくちに「保存」といっても性質の違うものが混ざっていることです。「保存されません」という説明を読むときは、そのうちのどれを指しているのかを確かめてください。

種類内容確認する場所
①学習・モデル改善への利用入力内容がAIの学習データとして使われる利用規約・データ保護のドキュメント
②不正利用監視のためのログ保存学習には使わないが、規約違反の検知のために一定期間ログを保持する不正利用監視(Abuse Monitoring)のドキュメント、例外承認の有無
③処理中の一時的な保持回答を生成している間、メモリや一時ファイル上にデータが存在する——(どのサービスでも処理中は必ず存在します)
④ツール提供者側での保存AI事業者ではなく、そのAIを使ったサービス側がファイルや履歴を持つかそのサービスのプライバシーポリシー

①②はAI事業者側の話、④はツール提供者側の話で、確認する先が違います。③はどんなサービスでも避けられないもので、「データが一瞬たりともどこにも存在しない」ということはありえません。「保存しない」が永続的な保存を指すのか、処理中の一時的な保持まで含むのかを切り分けて読むと、説明の意味を正確につかめます。

3. 委託先としての管理体制が整っているか

データ処理契約(DPA)の有無、暗号化の方式、アクセス権限の管理といった、一般的な委託先管理の観点です。あわせて、自分が使うサービスの提供者が、その先でどの事業者を使っているか(再委託先)まで公開しているかも確認できると安心です。

サポ10で実際に行った対応

参考として、当事務所が運営するサポ10で実際に踏んだ手順を紹介します。同じ懸念を持つ先生の判断材料になれば幸いです。

  1. 法人向けの有料プランを利用 — 個人向け無料AIは使用せず、規約で学習不使用が明記された有料サービスのみを利用しています
  2. 法人向けAI基盤へ移行 — 2026年7月、AI処理をGoogle Cloudの法人向け基盤(Vertex AI)上での実行に切り替えました
  3. 保存の例外承認を取得 — 不正利用監視を目的としたプロンプト保存についても、Googleに申請を行い、例外承認を取得しました(2026年7月)

先ほどの4つの区分にあてはめると、現在のサポ10の取扱いは次のとおりです。

区分サポ10での取扱い根拠
①学習・モデル改善への利用利用されませんGoogle Cloud(Vertex AI)の規約
②不正利用監視のためのログ保存承認対象のGoogle Cloudプロジェクトについて、この目的でのプロンプト保存が免除されますGoogleから例外承認を取得(2026年7月)
③処理中の一時的な保持変換している間だけ、サーバー上の一時ファイルとして保持します——
④サポ10側での保存変換が終わった時点で一時ファイルを削除します(エラーで終了した場合も削除します)。残るのは「いつ・どのファイル名で変換したか」という利用履歴だけで、決算書の中身は含みませんプライバシーポリシー

ここで説明しているのは、承認の対象となっているGoogle Cloudプロジェクトについての取扱いです。「あらゆるデータがどこにも一瞬も存在しない」という意味ではなく、上の区分ごとに扱いが決まっている、とご理解ください。通信はSSLで暗号化しています。詳細はプライバシーポリシーに記載しています。

サポ10は、決算書PDFをアップロードすると建設業財務諸表の様式に自動転記するWebサービスです。
データの取り扱いは、上の区分ごとに規約と承認の範囲を示しています。出力されるのは下書きですので、元の決算書と照合し、必要な補足・修正を行ったうえでご提出ください。

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よくある質問

Q. 顧問先の決算書をAIに読ませると守秘義務違反になりますか?
A. 一律に違反となるわけではありません。データが学習に使われないか、保存されるか、誰がアクセスできるかといった条件に加えて、依頼者との契約、送信する情報の範囲、利用目的、委託先の管理体制まで含めて判断します。学習と保存の2点だけで結論が出るわけではありません。個別の判断は所属会や弁護士にご確認ください。
Q. 無料のAIと法人向けの有料AIは何が違いますか?
A. 最も大きな違いはデータの取り扱いです。個人向け無料サービスは規約上、入力内容が学習に利用される場合があります。法人向け有料サービスでは、学習に利用しないことが規約で定められているのが一般的です。
Q. 使う前に何を確認すればよいですか?
A. (1)学習に使われないか (2)どこにどれだけ保存されるか (3)DPA等の委託先管理が整っているか、の3点を規約で確認することをおすすめします。(2)については、学習利用・不正利用監視のログ保存・処理中の一時的な保持・ツール提供者側での保存を分けて確認すると、説明の意味を正確につかめます。
Q. 依頼者への説明は必要ですか?
A. 業務の進め方として外部サービスを利用することを、契約書や説明の中で明らかにしておくと、後々の認識のずれを防げます。どこまで記載するかは事務所の方針や事案によって異なります。

参考資料

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